建築物の大型化、高層化や情報網の発展により、電力ケーブル、通信ケーブル等がますます大量に使用されるようになってきた昨今、ケーブルが関与する大火災発生の危険性が大きくなってきています。
ケーブル火災の恐ろしさは、いったん火災が発生すると、ケーブル線路に沿って燃え広がり、ケーブル線路の延焼防止措置が不十分な場合は、縦横に火災が拡大することにあります。
また、ケーブルの被覆材は燃焼する際に塩化水素ガスや一酸化炭素等有毒なガスを発生するため、尊い人命をも奪うことになりかねません。

建築基準法には火災の拡大や煙の伝播を防ぐため防火区画を設けることが規定されています。
防火区画の壁・床をケーブルが貫通する場合は、その貫通部にも防火措置が必要です。
もし、ケーブル貫通部に防火措置がとられていないと、建物の一部で起きた火災がケーブルを伝わって全体に広がってしまう危険があるからです。

ケーブル貫通部の防火措置 無し

建物の一室であがった火の手はその部屋を燃やし、やがてケーブルを伝わって隣の部屋へ燃え広がります。

ケーブル貫通部に防火措置がとられていないと、ケーブルが導火線の役割をして、建物のほかの場所へ火災を広げてしまいます。

ケーブル貫通部の防火措置 有り

施行令に定められた防火性能を有するケーブル貫通部の防火措置がとられていれば、火災の延焼を防げます。

ケーブル火災の原因と延焼防止の重要性

ケーブル配線の防災対策

防災対策 具体例 特徴 備考
ケーブル難燃化 難燃ケーブルの使用 新設ケーブルに対応 ケーブル難燃化措置
延焼防止材によるケーブル保護 延焼防止塗料、防火テープ、防災シートの使用 配線状態毎への対応が必要既設ケーブルにも対応可能 ケーブル難燃化措置
燃焼区域の制限 ケーブル貫通部の防火措置工法 防火区画の概念に基づいている 法律で定められた防火措置

ケーブル配線の防災対策については、材料面からと工法面の両方より取り組まれています。

ケーブル難燃化は

材料面からみた防火対策です。
ケーブルの絶縁体、被覆、介在物の材料を難燃化することで、難燃ケーブルとして各種の開発が進められ、原子力用ケーブルや消防用ケーブルとして用いられています。

延焼防止材によるケーブル保護は

一般のケーブルに延焼防止塗料、防火テープ、防災シートを施すことによりケーブル火災の延焼を防止することを目的としています。

燃焼区域の制限は

耐火仕切板や耐火充填材等の防災材料をケーブルの区画貫通部に使用し、火災の伝播をここで阻止することを目的としたものです。
特に高層ビル等の建築物内のケーブル配線については、防火区画壁・床等でケーブル貫通部の防火措置を確実に実施することが、防災上非常に重要な点です。

防火区画貫通部の防火措置工法

防火区画とは

一般建築物で、火災発生時に火災の拡大や、煙の伝播を防止する目的で建築物の用途、一定の床面積、階段やシャフト等の竪穴ごと、準耐火構造の壁・床・防火戸等によって区切られた防火上有効な区画を言います。

防火区画貫通部とは

防火区画を給水管、配電管、その他の管(含むケーブル)が貫通する部分を言います。

防火区画貫通部の防火措置工法とは

火災の拡大を防止するため、防火区画の性能をそこなわぬように、防火区画貫通部を措置する工法。 建築基準法施行令の中で、上記配管等が防火区画を貫通する場合においては、当該管と準耐火構造の防火区画とのすき間を不燃材料で埋め、これらの管の当該貫通部分と両側1mは、不燃材で造ることとされています。
(建築基準法施行令の第112条第15項及び第129条の2の5第1項第七号イ)
しかし、近年ケーブルの使用量も増え、省スペース配線の必要性や、頻繁にあるケーブルの増設、撤去にも対応可能な措置が望まれるようになりました。そのような状況に対し、 大臣認定(旧 BCJ評定(評価))を受けた工法が、認められ採用されてまいりました。

なお、ケーブル配線の防火区画貫通部の防火措置に関するその他基準・指針の主なものとして、以下のものがあります。何れも大臣認定工法(旧 BCJ評定(評価))をベースにしております。

  1. 電気設備工事共通仕様書 建設大臣官房官庁営繕部監修
  2. 電気設備工事標準図 建設大臣官房官庁営繕部監修
  3. 電気設備工事管理指針 建設大臣官房官庁営繕部監修
  4. 建築設備設計・施工上の指導指針 建設省住宅指導課監修・日本建築主事会議編集
  5. 東京都建築設備行政に関する設計・施工上の指導指針 東京都建築設備行政連絡協議会編集

ケーブル貫通部の防火性能

ケーブル貫通部に必要な防火性能は、(注1)建築基準法施行令第112条第5項 及び (注2)第129条の2の5、第1項第7号に規定する防火措置を講じたものと同等以上とされています。
この施行令に定められた防火性能を有している事を証明する方法に、国土大臣認定工法があります。
詳しくは「代表的な国土交通大臣認定工法」をご覧ください。

(注1)建築物の11階以上の部分で、各階の床面積の合計が 100m2をこえるものは、第1項の規定にかかわらず、床面積の合計 100m2以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は防火設備で区画しなければならない。

(注2) 建築物に設ける給水、排水その他の配管設備の設置及び構造は、次に定めるところによらなければならない。

  1. コンクリートへの埋設等により腐食するおそれのある部分には、その材質に応じ有効な腐食防止のための措置を講ずること。
  2. 構造耐力上主要な部分を貫通して配管する場合においては、建築物の構造耐力上支障を生じないようにすること。
  3. エレベーターの昇降路内に設けないこと。ただし、エレベーターに必要な配管設備の設置及び構造は、この限りでない。
  4. 圧力タンク及び給湯設備には、有効な安全装置を設けること。
  5. 水質、温度その他の特性に応じて安全上、防火上及び衛生上支障のない構造とすること。
  6. 地階を除く階数が3以上である建築物、地階に居室を有する建築物又は延べ面積が3,000m2を越える建築物に設ける換気、暖房又は冷房の設備の風道及びダストシュート、メールシュート、リネンシュートその他これらに類するもの(屋内に面する部分に限る。)は、不燃材料で造ること。
  7. 給水管、配電管その他の管が、第112条第15項の耐火構造等の防火区画、第113条第1項の防火壁、第114条第1項の界壁、同条第2項の間仕切壁又は同条第3項若しくは第4項の隔壁を貫通する場合においては、これらの管の当該貫通する部分及び当該貫通する部分からそれぞれ両側に1m以内の距離にある部分を不燃材料で造ること。ただし、耐火構造若しくは第115条の2の2第1項第一号に掲げる技術的基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁若しくは防火設備で建築物の他の部分と区画されたパイプシャフト、パイプダクトその他これらに類するもののなかにある部分又は建設大臣が防火上支障がないと認めて定める基準に適合する部分については、この限りでない。
    以下省略。

(注)大臣が定め:S 44.7.3付建設省告示第3183号(3-7)